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20170926

うさぎA

 

うさぎ数羽が、雨上がりの小さな水の溜まったうさぎ穴の中で、うさぎAの躯を囲んでいた。

あるものは怯え、あるものは憐憫の様子でうさぎAを見下ろし、またあるものは濡れそぼる羽毛の下で小さくやせ細った後足の傍に膝をつき、儚い死を悼んでいた。

「このことはすぐにも長にお伝えしなければ」

あるうさぎが言った。その脇でむせび泣きいていたうさぎが震えるように何度も頷いた。

うさぎAはもう何日も食物を食べていなかった。ちいさなどんぐりが2つぶ落ちていたが、もうそれを食べる力もなく息絶えたようだった。

冷たく硬くなったからだ、少し開いた口元にすり減った前歯と傷つきが見える。右頬を下にし、前足で合掌するようにして死んでいた。うつくしい白と灰色の毛を持ったうさぎだった。風に揺れる敏感なひげと賢そうな笑み。背筋が弱く飛び降りたり飛び上がったりするのが苦手だった。

そんなうさぎAが死んだ。

 

うさぎAは世間に疎く、散策や思索(詩作)を好んだ。

発端は些細なことだった。世の中の動きが変わり始めたときだった。潮目を見ようと、うさぎたちは様々に寄り集まっては嘆いたり、討論したりしていた。

うさぎの長が言った。これからはできる限り数羽で食物を集めにいき、また食物を分け合おうではないか、わたしはうさぎの団結を信じる。誰もが誰もに声をかけ、気をつけ、励まし、うさぎの本来持っている相手を思いやる温かさや思慮を発揮し、生き延びよう。わたしは未来の安心を約束する。我々は1つだ。

そうして、それからうさぎたちは時々数羽で食物を探しに出かけるようになった。となり近所に声をかけ、または大きな徒党を組んで大規模な作戦のもと食物を奪還する時もあった。若いうさぎも老いたうさぎも、子うさぎも雌も、団結の言葉に心丈夫になった。しかし、興奮していきりたつものも現れ、その後には、時には傷ついた生き物がいることもあった。

うさぎAは本来そうであったように、一羽で居ることが多かった。最初は雰囲気に圧され、若者らしく食物を得るために仲間と森を駆けた。しかしだんだんと疎くなった。待ち合わせ場にやっては来るものの、必要な分だけ確保すると、仲間を離れて居なくなってしまうこともしばしばだった。

ある時、仲間のうさぎが言った。性根がはいってない。今は有事だぞ。みんなで一つになろうと長が言ったではないか。

うさぎAはもじもじしながらも答えた。でもまだ食物はあるじゃないか。食べ過ぎて太っているものもいるし、子うさぎが殻を割る競争だけして実を粗末にしていたのを僕は見た。食べるものは足りてるんだよ。

しばらくうさぎは足を踏み鳴らしていたが、うさぎAを後にし、意外にすんなりと引き上げていった。

次の日、殻割り競争の子うさぎとその親は突き止められ罰を与えられた。そしていくつかの規則が告げられた。

 

うさぎAは仲間と一緒に行動することが殆ど無くなっていった。自分の分は自分で確保するから心配しないでくれと、中でも親しいものに話した。

うさぎAは腹が空いていることが好きだった。そして自然の中でいろいろなことを考えて、考えてそして疲れたときに何か少し栄養をとり、静かに少し幸せに眠れれば充分だった。だからしばらくの間そうした。とても幸せだったし、少し多く食物が手に入ったときには、知り合いや友だちに分けた。

しかししばらくしてまた規則が告げられた。食物は配給制とする、カテゴリーに従いうさぎたるものは一定量の食料を納めるように。

うさぎAはいままでよりも食料を探す時間を増やした。そして一定の納量を確保するため、少し多く食料が手に入っても知り合いや友だちに分けることを控えた。

 

ある日うさぎAは、自分の目当てにしている場所へ、気の置けないうさぎと出かけていった。世相離れしていくうさぎAを案じてたびたび訪れていた。子うさぎがまた生まれるため、滋養のあるものを見つけたいが、仲間に不安を感じていたし、にらまれるのを恐れていた。道すがらいろいろの話をしながら、二羽はまるで秘密のピクニックのようにして滋養のあるものを探して歩いた。

しばらくして、目当てにしていた場所が荒らされていることに気付いた。次の折にと残しておいた小さな蕾すらないのだった。暴力はうさぎAに向けられなかった。いったいなぜ? うさぎAは自分が孤独なことを知った。しかし孤独は本来的なものであるのに対し、孤立は外界からされるものだと知った。うさぎは孤立を受け入れた。

うさぎAは違う食料場を探した。そして新たに見つけた場所へ慎重に出かけて行っては少しの食物を持ち帰った。けれどもそこもしばらくすれば、また荒らされてしまうのだった。

 

「いや、長にはしばらくしてわたしから話す」あるうさぎが言った。うさぎは地面を踏み鳴らした。

天井からの水滴が時をいくつか打った。うさぎは解散を命じ、数羽はすぐに去った。一羽はしばらく目を閉じたままだったが静かに立ち上がり去っていった。まだむせび泣いていたうさぎも最後に引きずられるようにして連れ出された。

残されたうさぎAの体はしばらく後、秘密裏に葬られた。

 

at 22:44, nomi, 創作的カキコミ

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comment
nao, 2017/09/27 3:30 AM

桜見丘大好きです!
いつか生唄聞いてみたいです

nomi, 2017/09/27 5:35 PM

naoさん、ありがとうございます。
いつかぜひ☆

HARLEY, 2017/09/27 9:49 PM

うさぎA。。( ノД`)

団結したはずなのに孤立!
悲しい物語でしたね。

久しぶりに読む物語また読みたいので
書き下ろしてきださい(^^)/

nomi, 2017/09/28 1:14 AM

美辞麗句の下に繰り返される悲劇。










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